注目のヒト
子育て世代が本当に住みやすい家づくりアイデアの宝庫
エストホーム代表尾岸様
エストホーム株式会社 代表取締役 尾岸賢二様
札幌市近郊
「タダ働き」から起業現場を学んだ独立直後
布広 まずはご経歴をお伺いしたいのですが、尾岸社長は旭川ご出身なんですか?
尾岸様(以下・尾岸) はい、僕は工業高校の土木科出身なんですよ。高校卒業後は旭川の中堅ゼネコンの土木部門へ入りました。農業用水関係で、主に山で木を切る、切る、切る、といった仕事内容で、19歳の時、この職業を定年までやれるのだろうか・・60歳まで働くとして、あと40年、この仕事をやれるのか?という疑問が湧いてきてしまいまして・・もともと私は高校時代から独立願望が強くありました。自分の思ったことは貫き通したい性格で、しかし誰かの下にいてわがままを言うことは出来ないということはわかっていたので、それなら自分がトップでやるしかない、と思っていました。しかし1年でこの職業で独立するのは難しいなと感じてしまったのです。ある時、僕たちの現場近くで何かを作っていた型枠の大工さんと知り合いました。作っていたのはおそらく学校か何かだったと思うのですが、面白そうな仕事だなと思って話をきいてみると、「大工をやりたいなら俺たちみたいな大工じゃなく、家をつくる大工が良いぞ」とのことでした。「家づくり」・・・今までまったく視野になかった分野だったのですが、その大工さんの一声で思い切って仕事を辞め、すぐに一人親方の大工さんの下に弟子入りしました。ここから休みなく、とにかく勉強の日々のスタートです。親方の働きをみて学び、色々なことを教えていただきました。ところが20歳のころ、バブルが弾けて不景気が始まり、旭川では仕事が減ってきてしまいました。そこで20歳の若い男の考えることといったら「人口の多いところにいけば仕事があるはず!」。僕は札幌へ行く決意をしました。まずは勤めないとと、リフォームをメイン事業とする建築屋さんに面接に行くと、「すぐに来て」との回答。家もまだなかったので友達のところに1ヶ月居候しながら働き出しました。
布広 行動が早いですね!
尾岸 そこで5〜6年大工をやったのですが、そこの社長に「独立するんだったら現場管理をやった方が良いぞ」と勧められたことをきっかけに24歳で現場管理をやることにしました。
布広 その社長のところにはどのくらいいらっしゃったのですか?
尾岸 5~6年大工をやって、24歳で現場管理へ。31歳でやめて独立です。
布広 いつかやめて独立するぞという想いはあったとのことですが、何歳で独立するかは決めていたのですか?
尾岸 30歳を目標にしていました。「僕は独立したいんです、でも今まだそんな力はないのでここで色々学びたいです。それから独立して羽ばたいていきたいです。」と面接の時に伝えました。
布広 なんと。その当時の社長さんも、独立することをよしとして受け入れてくれたんですね。
尾岸 僕は正直、入れてもらえないと思いましたよ。(笑)
布広 そうですよね。いずれ出ていく人間で、さらに競合会社になるかもしれないんですもんね。
尾岸 僕自身、30歳で絶対に独立してやるという気持ちでいました。実際は色々あって独立は31歳になってしまいましたが、家を建てることだけでなくお客さんとのコミュニケーションのとり方や、業者さんとの付き合い方、「あいつと一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるにはどうしたらよいか、等、常に考えながら仕事をしていました。家は業者、色々な人が関わって作り上げるものですから、業者さんにも嫌われないように気をつける・・すると困ったときには必ず力になってくれますからね。実際元請けだと「お前ら下請けだろ」と横暴になってしまう方って多いんですよ。「仕事を出してやってる」という態度でいるのは本当に良くありません。
布広 そういったことはどこで気がついたのですか?
尾岸 勤めていた会社の社長に教えてもらいました。今はもうその会社はないのですが・・その会社で今、エストホームで働いてくれている従業員とも出会いましたよ。その会社の社長は、僕とは考え方が真逆の人で、下請けさんたちはいつも僕らに「お前の所の社長はさぁ・・」と愚痴っていました。
布広 その社長が反面教師だったのですね。
尾岸 そうなんです。付き合い方だけでなくお金のことも反面教師として学ばせてもらいましたね。今は僕が社長ですから従業員の給料を決めないといけない立場ではありますが、自分がいち、社員だった時は、「いつになったら、どれだけ頑張ったら、これくらいの給料がもらえるようになるのだろうか」と、ずっと疑問に思っていました。僕は、どれだけ勤めたかとかいう月日じゃなく、どれだけの成果を出したかが大事だと思うんですよね。しかし小さな会社だと、ほとんどどこの会社も社長のさじ加減で給料が決まるんじゃないかと思うのですが、これでは人がついて来るわけ無いですよね。従業員からしたら、頑張って成果を出している自負はあるのに、どのくらい成果を出せばどれだけもらえるかがわからないと、先が見えなくてしんどいのですよ。30歳で辞めると決めていたのに独立が31歳になった理由は、20歳で札幌に出てきた時からお金がない時におごってくれたり助けてくれたりした上司がいて、その上司に「もう少し頑張ってくれ」と言われていたからなのですが、でもやはり限界が来て辞めたのが31歳でした。そこからの僕は札幌に来てから31歳までに経験したことの、真逆のことをやっています。31歳で尾岸技建として独立したのですが、実際独立してみると前の会社にいた大工さん5名くらいが皆うちに来ちゃったんですよ。結果的に前の会社からしたら引き抜いたみたいになってしまい、それはそれは大変でした。すると、それまで勤めていた会社の社長は「とりあえずうちの仕事をやってよ」と言い、なんと、辞めた会社の下請け仕事をやることになってしまいました・・!
布広 なんということでしょうね。(笑)
尾岸 でもそこからの仕事だけでは食べていけないし、他にも仕事を紹介してもらいながら必死に仕事をつないでいた頃に、前の会社が崩れ始めるのです。元同僚達から「どうやら会社がやばそうだ」といった相談が来て、それで株式会社エストホームを立ち上げ、法人として土台をしっかり構え、スタートする事に決めました。色々なことを受け入れようと決意したのです。
布広 独立当初の「尾岸技建」では新築もされていたのですか?リフォームメインですか?
尾岸 リフォームがメインですね。その後結局前の会社は倒産してしまったのですが、会社がおかしくなり始めた頃から、契約金だけもらって工事をしていないということが多々あったようで、困っている方が沢山いらっしゃいました。そこでエストホームはそれらのお客様を無料で引き受けることにしました。お客さんは被害者で何も悪くないですからね。
布広 わ、すごいですね。無料で工事をやったのですか?その資金はどうされたのですか?
尾岸 資金は銀行から借りてやりました。 被害にあった方たちとエストホームは直接的には関係ないと言えば関係ない。でも僕自身がその事を知っているということで、全く関係がないわけではない・・1軒1軒のお客さんをまわりました。「私が守ります」と。時には怒られたりもして、僕に怒られてもな〜というのはありましたが(笑) そういった事があり、エストホームが立ち上がった時は資金面で苦しかったけれど、仕事は沢山ありました。1円も入らない仕事ですけれどね。
布広 今何十年と経ったからぎゅっと圧縮された過去の話になっていますが、資金繰り、絶対大変でしたよね・・?
尾岸 当時は資金繰りよりも、その困っているお客様のことしか頭になかったんですよ。今大変でも絶対いつかこの事が繋がる日が来るはずだと思ってやって来ました。今出ていくお金よりもこれから得るお金のほうが大きいはずだと信じて。そのおかげで当時から現在までお付き合いある方は、沢山いらっしゃいます。
布広 会社を立ち上げる時はタダ働きや先行投資が多くなりますが、社長の場合はタダどころじゃなく、お金を借りてまでして困っている人を助けて来られたのですね。
尾岸 皆さん被害者ですからね。たとえば70万、お金を支払っているのに、何もしてもらえなかった・・それを知っていて放置するわけにはいかないじゃないですか。救いたかったんです。元在籍していた会社の社長には感謝ですよ。彼のおかげで色々な考え方が出来るようになり、彼のおかげで沢山の方と出会えました。ただ、トップになってみて、当時の社長の気持ちがわかる場面もあったりします。10〜11年かけて学ばせてもらいましたね。こういうことをすると人がついてこない、儲からないとかそういうことまでわかるようになりました。だからエストホームを立ち上げた時には給与体系を明確にしました。営業には「何をどうしたらどれだけの給料がもらえるか」をわかるように提示したのです。自分はどれだけほしいなら、どれだけやればいいか、がわかる。
布広 ゴールとプロセスの設計・・。いずれトップに立とうとしていたからこそ日常的に色々なことにアンテナをはっていらっしゃったのでしょうね。
尾岸 毎日のように独立しよう、独立しようと考えてやっていたわけではないですけれどね。毎日真剣に働いているうちに少しずつ体に染み込んでいった、という表現が正しいかもしれません。下請けさんとの付き合い方も、どうしていこうかものすごく考えましたよ。例えば普通請求書がきたら振り込みますよね?僕は振り込みませんでした。建築業界の謎システム、末締め翌末払い・・。普通、スーパーでは物を買って、じゃぁ来月払うわ、なんてことはないでしょう?笑 僕みたいな31歳のまだまだ信用の少ない人間と仕事をしてくださっている。これは大変ありがたいこと。「今月もお支払いできます、来月もどうぞよろしく」という感謝の気持ちを込めて、あらゆる下請け業者さんの所に支払いに通いました。1年程経った時、とある会社の社長に「もういいぞ、お前の気持ちはもう十分わかったから」と言われて、そこでやっとお言葉に甘えさせていただきました。訪問することでその会社その会社の色々な色も見えたので良かったですよ。人の会社の雰囲気、人の入れ替わり、そういったものを見てまた勉強になりましたし。
布広 現場力の強さ。現場現場で起こったことが全て血となり肉となり、今のエストホームさんをつくっていったのかな、というように感じられました。
尾岸 「勉強」が嫌いなんでね。思い立ったらすぐ行動してきました。経営者になって考える力がついた、考えようとする意識がついた気がします。結局、何事も、あれもこれもの組み合わせで解決できると思うんです。例えば1日の仕事。15時に帰りたいなら、残業をしない為には、どのようなスケジューリングで10ある仕事を終わらせていこうかを考えるべきだと思うんです。社員の皆にはどんなことでもいいから常に目標をもって仕事をしていてほしいですね。出来る出来ない、早い遅いではなく、目標を決めるか決めないか、だと思うんです。
子育て経験者が創るコンセプト
お客様が後悔しないように、本当に必要なものを探っていく
布広 スポーツも、勉強も、何事もそうですよね。「働き方改革」がいま世の中では話題ですが、生産性や効率を高めるプロセスの要(かなめ)は段取り力なんですよね。私も会社員時代、所属する事業部の働き方改革を推進する役割を担当した経験があります。ですが私自身、もともと無駄な仕事はせず早く終わらせて飲みに行きたいタイプでしたから(笑)、直属のメンバーにはいかに段取りよく仕事を終わらせるかが大事かと、日頃からよく伝えていました。その影響か、自分の組織は比較的そういったことが得意だったんですよね。それを見ていた上司が、(自組織以外の)事業部全体に対しても同じように教育してくれと、役割を与えてこられたのですよね。
尾岸 人によって得意不得意もあるし、一つの事をやってあれ?違うな?と戻っていることもあるじゃないですか。その戻り時間がもったいないですよね。戻ることなくどう複合させるか・・。それに気付けないのはもの考えずに仕事しているということで、結果的に自分を苦しめていると思うんですよ。エストホームも会社ですから一応ルールというものはありますが、本当のところ、僕は1日の仕事が終わったなら帰ればいいと思うんです。何なら期初の前半でも、設定した目標を達成できてしまったなら、あとは休んだっていいんじゃないかとも(笑) まぁ、それは言い過ぎだとしても、目標達成したなら来月の為の動きをしたっていいし。最低限のルールはないと駄目だけど、ルールに縛られ過ぎもどうかと思っています。
一生現役で、という人もいますが僕は逆で、55歳で辞めるというゴールを決めています。75歳で死ぬと仮定すると55歳で引退したらあと20年しかありません。この残りの20年をのんびり好きに過ごしたいなぁ、と。元々はこんな考え方をしたり、計画性のある人間ではなかったんですけどね。
経営者になると、よく「ゴルフやらないんですか?」と聞かれるようになり、「経営者なら
やってないと駄目なのかな?」と思ってゴルフを始めたのですが、始めてみたらハマったんですよ。これを言うと遊びでしょ、と笑われるかもしれないのですが、「練習する、もっと上手くなりたい!」「どうしてまっすぐ飛ばないのだろうか・・」と考えていくとどんどん彫り下がっていくのです。「それは道具のせい?スイングのせい?」雑誌を買うのも一つの手段。TVをみるのも一つの手段。色々やってみましたが駄目で、結局僕は「プロに教わる」という選択をしたのですが、上手くなる為にはどうしたらよいか、あらゆる手段を考えました。そうしたらやはり、結果はついてくるのです。このゴルフの話は例えばの話なのですが、物事はまずいろんな手法をだしてその中からうまく行く確率の高いカードをチョイスし使う、それがいいと思っています。例えば1番のカードを使って駄目なら4番目のカードを使ってみる。何かをやるには必ずいくつかのカードを用意することが大事です。僕はそのカードのことを時に「保険」と言ったりもしますが。何かにチャレンジしてみて「駄目だったね、仕方ないね」ではなく、「駄目だった、じゃぁ次はこうしよう」という次の一手を、社員の皆にも考えていてほしいと思っています。会社のトップになったらすべての責任は自分にあるので、他のカードがない場合、つまり保険がない場合はYESとは言えません。例えばそのチャレンジが駄目だった時、「君たちのせいだ」と、従業員のせいにするわけにはいかないですよね。何とか社員に色々なことをチャレンジさせてあげたいから、そして成功させたいから、僕も何か保険がないかなぁと探したりするのですが、それでも保険が見つからない場合は、その企画には「YES」を出しません。
布広 「保険」が言葉としては「カード」に変わったり、「手段」に変わったり。それも全てはゴールを達成するための考えなのですね。
尾岸 そうなんです。いろんなおいしい話が出てきても、それは本当によい話だろうかと、判断を間違わないように気をつけています。
布広 そういったあらゆる選択肢の中から間違いのないカードを選んで来られたからなのでしょうか、弊社のお客様を連れてエストホームさんのモデルハウスに来ると、皆さん本当に良いと仰ってます。私も色々なモデルハウスを見てきましたが、こちらのモデルは今シーズン評判の良い中の1つです。
尾岸 エストホームが出来てから5~6年、いや、7年は1人で突っ走ってきました。本当にいいのかと不安もありながらもソファ1つまで僕が全部自分で決めてきましたが、今は頼もしい女性建築士が2人もいて面白い企画・設計をしてくれています。この2人の女性がキーを握っていましてね。僕らみたいな小さな会社が面白くないものつくっていたら価格勝負になっちゃうところを、他とちょっと違うな、という発想をどんどん出してくれています。その結果がエストホームのモデルハウスです。
布広 社長自身は今も企画に携わっておられるのですか?
尾岸 僕は少し身を引きました。僕が企画した家を一番アツく語れるのは間違いなく僕です。しかし、いつまでも僕がいるわけではない。だったらと、各々が企画し、アツく語れる住まいをつくる。これが今後のエストホームにとって大事だと考えたんです。
布広 御社は「子育て世代のママ目線」というコンセプトになっていますが、女性が企画することでそういったカラーが前面にでてきているのでしょうか。
尾岸 そうですね、エストホームの社員は30代〜50前半で構成されています。ちょうど運がいいことに、結婚をし、子育てを経験してきた人達ばかりなんです。さらにほとんどの社員が自分で考えた家をエストホームで建て、その家で子育てをしています。家づくりって本当に難しいじゃないですか?雑誌の情報、ネットの情報、モデルハウスも札幌に沢山あるし、情報がありすぎることで混乱することもあるし・・。
今回震災があって、備蓄の大切さを知りましたよね。けど、電池式のストーブや備蓄の食料、これをどこに置きますか?「18畳のリビングが欲しい」・・・4人家族で本当に必要ですか?ちょっと配置してみるとテレビとソファの間がとても空いてしまいます。それならこうしてこうしてココに備蓄用の納戸を作りませんか?ただ無駄に広い空間をつくるのではなく、有効的に使える空間をつくりましょうよ、とお話させていただきます。
お客様のご要望に対し、何故?何故?を大切にしてプランを作っていくことを大切にしています。理由なく希望されていることはとても危険です。そこからお客様にとって本当に必要なものを探っていくのです。もちろん、こちらの意見の押し付けはいたしませんのでその点はご安心いただきたいですね。自分たちが実際に建てて、小さな子どもが大きくなるまで育ててみて、この家のここが良かった、ここは失敗だった、というリアルな話ができるからこそ、私達は皆さんが家づくりで失敗しないようにその知識を提供していきたいと思っています。僕がもらって嬉しい言葉は「よくこんなこと思いついたね!」という言葉です。先を読み、提案するからこそいただけるお言葉だと思っています。
そういった中から皆さんある程度の要望をお持ちになって相談に来られるのですが、例えば「寝室が8畳で・・」というご要望があったとすると、「本当に寝室に8畳もいりますか?」と思っちゃうんですよ。そこに書斎でも欲しいなら別ですが、寝るのがほとんどの場所ですよね。一般的に8畳が多いからという理由だけでその広さを希望され、私達が「8畳ですね!わかりました!」とそのまま聞き入れて家づくりをしていったら、結果、ただただ勿体無い空間になってしまう可能性もあるわけです。ご要望をそのままに受け止めることが、必ずしもお客様の為になるとは限りません。
布広 そのあたりの事は現在、社長は一線を引いているけれど、皆さんにもその想いは引き継がれているのですか?
尾岸 はい、そうですね。この評判のモデルハウスには一切口出ししていませんからね。
布広 繋がるリビングと庭・・あとは、玄関横のトイレには手洗い場がなくて、トイレ外、玄関の所にある手洗い場。こちらの方がトイレから出ても使えるし、玄関入ってすぐに手が洗えるし、とても便利だなと思いました。あとはエストホームさんならではの可動式の間仕切り、これは本当に、良いですよね。
尾岸 「お風呂も洗面所も洗濯も二階」これは最初に考えた事です。もし洗濯する場所が下にあって、子ども部屋が二階にあって、リビング階段があったら、「部屋に戻る時に持っていってね~」と絶対にお母さん、階段に洗濯物を置くようになるんですよ。(笑) そうならない為にはどうする?と考えた時の答えが「洗濯機を上に」ということだったんです。そして洗濯機が上なら水まわりも上に、となったんですよね。あと、僕はバルコニーがあまり好きではなく・・。北海道だと、冬使えないじゃないですか?これがどうも勿体無いと感じてしまいまして・・。お客様に「バルコニーがほしい」と言われたらまずその用途をお聞きして、例えば洗濯物を干したいなら「それならインナーバルコニーにしましょう」とご提案します。そうすれば冬でも使えますしね!さらに洗濯してすぐ干せて、それですぐ子ども部屋にしまえる動線もつくる。これもエストホームが得意な繋がり動線のひとつです。
布広 バルコニーに憧れを持つ時と言えば、アウトドア用のテーブルを置いて週末はお酒飲みながら音楽を・・なんて思ったりしますけど、実際に生活始まると洗濯物干しだけの場所として落ち着いていくことも少なくありません(笑)
尾岸 そうなのです。週にどれだけつかうのでしょう。たまにしか使わないもったいない空間をなるべく少なくしたいです。それで言うと、例えば客間です。よくあるのが、「お義母さんたちがきたときに」と言って客間を考えられる方が結構いらっしゃるのですが、年に何回かしか来られない方の為の部屋を、本当につくる必要があるのかどうか。4人なら4人が無駄なく暮らせる家を考えることが大切だと思うのですが、これが意外と理解しづらいようなのですよね。もちろんその気持ちもわかるのですが、リフォームのお仕事でお客様の家に行くと、リビング横の和室が物置部屋になっている事も多いのですよね(笑)
布広 なるほど!そういう事なのですね!「リフォームのノウハウを新築にも、新築のノウハウをリフォームにも」(注・エストホームのホームページなどに会社の特徴として表記されているコピー)新築とリフォームの両方を手がける具体的なご経験があるからこそ、お客様が後悔しない為の家づくりのご提案ができるのですね。築数十年経つお宅にリフォームでいくと、「この部屋使っていないから抜いてください」というご要望がオーダーされたりするわけですね。
尾岸 そうなんです。それを見ると、いずれ抜くのなら予め広い部屋をつくっておいて、のちのち(必要に応じて)仕切りで部屋をつくっていった方が良いと思いますけどね。新築の時点で10年後、20年後、30年後を考え、子どもが巣立った後は広く使えるような家にするなど、お客様ご家族の将来をと思っています。
布広 尾岸社長のそういった考え方、仕切りのこととかコンセプチュアルな発想はどうやって手に入れてこられたのでしょうか?
尾岸 自分の生活とリフォームからの経験ですね。リフォームでお客様先にお伺いすると、この部屋に仕切りを付けて欲しい、というご要望は少なく、この部屋の壁を抜いてほしいというご要望は非常に多くあります。しかし、構造上取れないこともあって、それをお伝えするとがっかりされてしまいます。それなら、新築時から壁がないように作っておけばよいのですが・・最初からちゃんと考えてつくれば、子どもの成長によって様々に変化し、いつも住みよい住まいで在り続けられます。
布広 耐震構造的な限界もありますし、だからこそ最初から考えておくべきと。これ(豊富なリフォーム現場の施工経験と新築建築とのシナジー)は小さな違いのような気もしますけど、エストホームさんにとっては非常に大きな強みですよね。そういえばエストホームさんのコンセプトのひとつ「繋がり動線」は、こちらのモデルハウスでいうと、この縁側も「繋がり」の中に含まれているのでしょうか?
尾岸 そうなんですよ。縁側をエストホームでは大切に思っています。でもTVとかで出てくるような、本州の縁側とはちょっと違うかな。
布広 ウッドデッキに近い感じですよね。
尾岸 そうなんです。そこを私達はあえて「縁側(ENGAWA)」と言いたいのです。縁側から繋がるというか・・・縁側があることで空間が繋がるし、家族も繋がる。この部分を重要視しています。無駄なく、どうやってお母さんがお子さんの動きを把握できるか、そして自分も家事が楽にできて、家族が集える場所にできるか、がエストホームの腕の見せ所です。エストホームのお客様の9割は子育て世代のお客様です。
布広 子育て世代の方は、動線とか家族が繋がる場所を大切にしたいと思っていらっしゃる方々が多いですが、限られた(土地面積など)スペースでどう実現するかというのも課題ですよね。そうすると、庭とリビングが繋がっていると、なんだか1つリビングが増えるイメージですよね。
尾岸 そうですね!
布広 リビングからも出ていけるし、玄関からも出ていけるし、キッチンからも出られるし、本当に動線が良いですよね。何組かこちらのモデルハウスにお連れした際も、このお庭をご覧になり、皆さん惚れ込んでいました。当初は「立地条件を優先したいので、住宅の方は規格型で価格を抑えながら・・」という思考をお持ちだったご家族が、「多少は遠くなっても良いので、やっぱり注文住宅にしたくなってきました(笑)」とお考えが変わったりと。間取りの話と同じで、家こそ建てちゃうともう変更きかないから、最初になるべく思考の棚卸しをしておかないとですよね。
尾岸 20代前半・中盤の年頃で家が欲しいとなっている方に家づくりを勧めるべきか?ともいつもとても悩みます。収入面でまだ余裕がない時点でギリギリの予算で限界のものを手に入れるべきなのか、もう少し待って予算を増やしてから建てるべきなのか、、、今すぐ家を建てることがこの方たちの本当の幸せにつながるのか、とすごく考えてしまいます。もちろん予算が少なくても建てられないことはない。しかし、何かと(他にかかるお金を)削っていくしかないんですよね・・。最近ですと、営業スタッフは、若いお客様には親御さんにも会わせて頂くようにしていることも多いようです。自分が親だとして、例えば21歳になったばかりの自分の子どもが新婚夫婦として家を建てるなんて言ってきたら、色々と心配してしまいますよね。一旦親御さんに気持ちを落ち着かせてもらい、それでも、というのであれば前向きに話を進めていくようにしているようです。
「リフォームのノウハウを新築にも、
新築のノウハウをリフォームにも」
布広 いち私企業として考えた場合、1組でも多くの新築を自社で建ててもらい、結果的に会社の利益収益が上がる事、これ自体は良い事ですよね。ですがいま社長がおっしゃられたお話は、「今すぐ建てて本当にいいの?もう少し考えたほうがいいのではないですか?」とお客様の立場に立って考えられ、その人それぞれの家計、未来を色々考えた上での「適正価格」を考えてくださる、という事なのだと感じました。
尾岸 家だけにお金をかけた人生になってしまうとすれば、僕自身だったら嫌ですからね。それから、子どもがいるいないも大事ですしね。20代前半で家を建て、子ども部屋2つ用意したのにもし、子どもができなかったら?家づくりをきっかけに、人生設計もしっかりとしていただいてね。なんとなく子ども部屋ふたつ、なんて事では無駄な部屋になってしまうから・・。
布広 子どもが男の子か女の子か、という問題もありますしね。
尾岸 僕の主観的な考えでいくと、人生若い時なんて、まだまだ遊びにお金を費やしたほうがいいんですよ。人生経験のためにも遊びから学ぶことも沢山あると思うんです。早いうちから家を建てて、月々の支払いの為に生活が苦しくなっちゃう・・、それは私達も望んでいません。もう少し夫婦で色々な所に遊びに行って、思い出を沢山作って、子どもが生まれたからそろそろ、と家を建てたほうが良いのではないかと・・お客様の為になる、本当に良いプランづくりを提案していきたいです。
布広 このモデルも提案型ですものね。こういう一つの繋がり動線もそうですし、お話をお聞きしていると、「なるほど」と思う箇所が沢山ありますよね。
尾岸 玄関広いってのがね・・さっき無駄はいらないって言ってたじゃない、ってなるかもしれないのですが(笑) これが、無駄じゃないんですよ。玄関が無駄に広いって言うよりも、玄関がウォークインクローゼットなんですよ。
布広 確かに玄関が広いだけだったら無駄になるかもしれないのですが、このモデルハウスはすごく機能的ですもんね。自転車を置くことも出来るし、ペットを飼っているのだったら散歩帰りに足を洗うことも出来るし、すごく利便性が高い
尾岸 それを理解していただけるなんて~~~!
布広 子どもがまだお腹の中、まだいないというご夫婦だと、頭のなかでは理解できても実体験がまだこれからなので、具体的なイメージが沸かない部分も少なくないのではないでしょうか。例えば子どもが小学生になると、札幌の場合授業でスキーをやるじゃないですか。どこにそのスキーをおくか、ジャンパーをどこで脱ぐのか、雪をどこで払うのか、・・この玄関はこれらの全てが解決できますもんね!
尾岸 床暖房も入れているので雪もさっと溶けて乾く。そういえば、床暖房を入れると家が暖かいというのはもちろん最大のメリットです。実はそれと同時に、パネルヒーターがいらないってのが実はすごいメリット。僕のおすすめは子ども部屋にこそ床暖房ですね。子どもが机をこっちに持ってきたいとかそういうときに、(移動できない)パネルヒーターが備え付けられていると、部屋の模様替えに限界もでてきてしまいます。
布広 それから小さい子を目が届く場所で遊ばせられるこの庭も、本当に良いですね。
尾岸 畑もできますしね。庭があると色々なことが可能です。モデルハウスを建ててお客様の声を聞いて、いいことも悪いこともいろんな声を聞く。悪いところは削除していく。時には譲れないものも、プロとしてもちろんありますがね(笑)。
布広 それはでも、大切なことだと思いますよ。あとは実はお風呂が上なのも、プライバシーが守れていいですよね。1階部分のリビングの機能が高まる気がします。
尾岸 洗濯物類も全部上ですしね。今、洗濯物を畳まない人も多いらしいですね。そういった方には、干してそのままウォークインクローゼットにしまえる動線をご提案しますよ。
布広 そもそもタンスというものも減ってきていますもんね。クローゼットに全部収納している方も多いと思います。
尾岸 普通、ウォークインクローゼットがあるとしたら、大体寝室に1つくらいじゃないですか。僕が今考えている家は全ての部屋にウォークインクローゼットを付ける!これを設計に言うと「スペースに限りが・・」と言われてしまうのですが・・1畳のガラガラーっと開けるクローゼット、結構狭いんですよ。うちの子もそうなんですけど、あれだけだと足りないんです。自分の部屋に置くとこなくなってきて、だんだん僕たちの方へ侵入してくるんですよ。(笑) だからね、ウォークインクローゼットが普通の部屋に1つずつついている家なんてなかなか見ないですし、面白いと思うんです。僕らは設計事務所を入れて、見た目を超デザイナーズ!みたいな感じにはしていないので、他社にはないような「便利さ」をとにかく追求したいのです。実際に住んでみて何を失敗したかを洗い出し、昔からウォークインクローゼットは1つだからとか、昔からコンセントは下についているものだからとか、そういった固定概念は変えていこうとしています。そうしなければ新しいものは出来ていかないですからね。でも家の流行りはローテーションしていくとも思っています。20年前に流行ったものがまた流行ってきたり・・例えば昔はL型キッチンが流行ったじゃないですか。
布広 確かに最近見なくなりましたね。
尾岸 僕が大工を初めた頃は本当に流行ったんですよ。今はほぼなくなりましたがね。しかし2軒目のモデルのときに、生活感のない家が流行っている中で逆を狙って、生活感ありあり、家電出し出し、全ての家電が届く位置に見えるL型のキッチンを入れてみたんですよ。もちろん賛否両論ありますが、完成してみると「私たちの家にもお願いしたい」というお客様は何組かいらっしゃいました。
布広 なるほど、今の家電はどれもおしゃれに作られていますし、出しておきたい方やL型キッチンを好む人はいらっしゃいそうですね。そういえば、エストホームの「エスト」はどこからきたものなんですか?
尾岸 英語で「bigest」「greatest」とか、形容詞にestで最上級になるじゃないですか。その「est」です。最上級の家を皆さまにご提案したい、そんな想いが込められています。
布広 そういった想いが込められていたのですね。ところで、今後の課題感などはございますか?
尾岸 55歳で会社を辞めても会社は存続していきますので、後継者の問題ですよね。外部からは入れたくないので、私が引退するまでに今働いてる人が、この会社が欲しい!と思える会社に育てておきたいです。その為に僕がやれるのは揺るがない基礎を作ること。基礎は作ったから、色・形は後の人に付けていってほしいです。
布広 なるほどご自身の中でそう決められているのですね。従業員さんの中でも社長はいつかいなくなるものという意識ができているから、今頑張らないと、という意識が強く持てるのかもしれないですね。
尾岸 そう、次は俺たちの時代だ、と思っていてほしい。僕は会長になって威張るつもりは全くないですから。本当に、「55歳で引退する」とリミットを決めてそれに向けてやっているだけです。目標をもつことはいいことなんでね。社員にもそれはよく言っています。仕事の目標はもちろんなのですが、「車を買いたい」「ハワイに行きたい」といった個人的な目標でも何でもいいから目標を立ててやってほしいんです。その目標達成の為ににどうするかで、1日1日の行動も変わってきますよね。僕は社員が本当に目標を達成して旅行に行ってくれたりすると本当に嬉しいです。社員の生活が成り立ってる!楽しめてる!というのが見えるんでね。何をすればこうなる、というのがわかるから、頑張る目安にもなりますしね。
布広 高校を出てからこのようにずっと目標を立て続けてやってこられたのですね。
尾岸 そうなんですねぇ・・。
布広 やっとですね。これまで走り続けた数十年。55歳からはどのような生活をされるご予定なのですか?
尾岸 残りの20年はゆっくり、パン屋をやりたいんです。朝のパン屋さん。朝起きてすぐ、パジャマで買いにこれるようなね。それを娘が手伝ってくれたらいいな・・なんて考えています。一方で、新しいモデルハウスの計画もありますよ。企画としてはまた面白いものを考えています!今、もっともっと面白くなるように詰めているところです。どうぞ楽しみにしていてください。
対談後記
女性プランナーと共に子育て世代に向けた住みよいお家づくりを提供し続けるエストホーム。
豊富なリフォームの施工経験をベースにしたアイディアがそのまま、子どもが 巣立ったその後までずーっと住み易い、未来を見据えたお家づくりの提案に活きている。
一方、人生経験がまだこれからという若いご夫婦が新築をお求めになった場合、時にはご夫婦の親御さんとも面会し「いま建てるのが本当にベスト?」 「ギリギリの予算で生計は大丈夫?」など親身のアドバイスを行う事も。
「体温の伝わる」距離感でエンドユーザーに接し、親心満点の当事者目線で従業員の就業環境を整える。
「法人として」のエストホームは、尾岸社長の人柄をコアにした従業員「個々人」で織り成すチームワークで成り立っている。
そんな味わいを痛感するエピソー ドが満載でした。