注目のヒト
森かおる、ムクの家
株式会社渡部製作所 代表 渡辺耕平様
札幌市近郊
自然素材を活かし
大工仕事にこだわる家づくり
―会社の会社の成り立ちについてお伺いしたいのですが、創業は何年でしょうか?
渡部 昭和43年です。創業55年を迎えました。私は2代目の代表で、創業社長の父が、現在82歳で会長職を努めています。
―渡部社長は幼い頃から家を造るお仕事など、建築関係にご興味はおありだったんですか?
渡部 父が大工あがりの工務店経営者で、父の仕事姿を見ながら現場に付いて行ったりしていました。そうした環境もあり、幼いながらにごく自然に、いずれはこの仕事をするのかなと。何も考えずに今に至っております(笑)。子どもの頃、同級生の親が会社勤めだと、仕事がだいたい9時から5時までですから、夕方になればお父さんが帰ってくると言うんですが、自分にはその感覚は全然なくて。事務所が自宅の1階でしたから。いつも家に父がいる環境…建築業だから、業界の付き合いとか接待とか会食とかも多く、お酒が大好きなこともあって、いつも酔っ払っているイメージだったんですけど(笑)。
布広 大工仕事と経営、お父様の仕事姿をご覧になって、いわゆる「王道」を学んでいた感じがしますね。
渡部 今思えば、確かにそういう時期を経てきたというのはあると思います。地域に密着して、ときに商売に見合わない役回りを引き受けることもあったとは思いますが、やっていることが楽しく正しい商売をしていたんだなっていうことを、今は特に感じますね。
―どのようなコンセプトでお家づくりをされていますか?
渡部 戸建てがメインです。いろんなタイプはあるかと思いますが、木造をふんだんに使った家ですね。木造といっても、近代的な工法は、工場で造ってから運んでクレーン車で積み上げていくやり方もあります。それはそれで、簡素化して工期も短くなるメリットもありますね。ただ、弊社はそれとまた違って、昔のお寺を造るような在来工法という日本を代表する、土台から柱・梁を積み上げていくやり方です。コンセプト風に言えば、一から積み上げていく家、でしょうか。お客様に合った生活…ご予算も考慮して一から全部ひとつひとつ積み上げて提案をしていくっていう住宅づくりにしています。
布広 一から現場で作り込んでいくっていう家づくりですよね。スピードをというよりも本当に丁寧にお客様と向き合っていらっしゃるのかなと…時間はかかってはきますよね。
渡部 設計だけで半年〜1年ということもありますし、建築資材を考慮して時間がかかる面もあります。というのは、天然の木は曲がったり捩れたりということが起きるんです。完全に乾燥した木材でなければ、木材に残っていた水分が抜けて乾燥してきて、建てたあとから反ってくるという現象がおきます。ドアが開かなくなったり開きづらくなったりする原因になるんです。弊社では、本当に乾燥した状態で製材します。真っ直ぐにした状態で現場に納めるということが一番重要です。
―ホームページでは“100年先まで続く“とありますね。キーワードだと思うんですが、長く住めるお家のほうが造る側も喜ばしいですし安心ですよね。
渡部 もちろん目指しています。例えば、京都にある法隆寺は日本にある世界最古の木造建築物で約1400年建っていますね。これも木造で、もちろん手直しを繰り返して存在しています。弊社も、法隆寺と同じ建て方で木材を使ってやっていこうと。弊社は100年の実績はまだありませんが、そういう意味では工法の実績はありますよね。
―そうですね。いまいるこの本社事務所も、木材がふんだんに使われていて、木に囲まれている感じがします。なんだかモデルハウスのような…吹き抜けで天井の高さも感じられて、いわゆる事務所っぽくなくて素敵ですね。
渡部 いかにも事務所っぽいものを作りたくなくて(笑)。社員が大工・職人が多いので、みんなが集えるような雰囲気の設計にしたいと、こういったオープンな仕様になりました。
布広 扉を開けてすぐ右手には薪ストーブがあって、薪が置いてある…。
渡部 薪ストーブの火を見ながら仕事できたら一番いいなと。
布広 2階の吹き抜け部分に、1畳分ぐらいのサイズ感で吹き抜け部分にき出すような箇所がありますね。ワークスペースでパソコン置いてあって、宙に浮いた一画として存在。
渡部 吹き抜けが大きいので、2階に上って吹き抜けをうまく利用するとしたら何が良いか考えまして。2階から見下ろしたら社員がみんな見える状態です。じゃあ僕が船長になっちゃおうという遊びゴコロで、船をイメージして造ったものです(笑)。でも実は僕は1回しか座ってないんです。社員が優秀なので、社員に舵をとってもらっている状態です(笑)。
布広 今我々がいる、玄関入ってすぐのテーブルも大工さんの造作になるんですよね。10人以上座れるような…
渡部 弊社の仕事は、最初に設計から入りますので、大勢の家族が来社されても対応できるようなサイズのテーブルを作ろうということで、玄関のすぐ目の前に設置しました。
もう5年前ですかね、胆振東部地震の時に弊社も事務所1階が半壊しました。そのときに、地元の厚別(アシリベツ)神社さんのほうから依頼があって、被災で神社の木が何本も倒れてしまったので、それを撤去してもらえないかと相談がありました。倒木は直径80センチぐらいする大きなものもありました。それを引き取りまして、5年間作業所で乾燥させていました。この事務所も2023年5月にようやく建て直し終わりまして、倒木もこの椅子に生まれ変わったんです。ほかにも弊社の外看板としても利用しています。
布広 姿を変えたとはいえ、御神木に座っていていいんでしょうか(笑)
―ここに座るといいアイデアが浮かびそうですね(笑)。
お客様とのご縁で拡がる施工エリアと事業内容
リノベーション事業もお客様のご要望から
―渡部製作所は新築だけではなく、リノベーションもご相談できるということですね。本社の道路を挟んでちょうど向かいのカフェになっている建物もリノベーションしているんですよね?
渡部 44年経った中古住宅を購入し、リノベーションして6年経っています。当時、屋根から壁から全部順番に解体をしていたんですけど、基礎と土台と柱と梁まで裸にして、それでもまだ腐ったり交換したりする部分はかなりあって工期も長くかかりましたが、モデルハウスとしてリノベーションしました。
布広 そのまま利用するっていうことよりも、最低限の活用はしながらもほとんど入れ替えたという。渡部さんのこだわりのポイントだと思いますが、それは何ですか?
渡部 そうですね、弊社は新築も受注するんですけど、例えば実家をリノベーション・リフォームしてほしい場合、そこにお孫さんだったり息子夫婦が住むという依頼もたくさんありまして。確かに壊して建て替えることは簡単なんですけど、お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃんが残していただいた建物は思い入れがありますので、そこをどう蘇らせてくれるのかという依頼もあったりします。
布広 想いを感じますね。
―言われてみないと新築のような感じがしますね。中に入ったら屋根裏がありました。
布広 2階にあがってもう1階というか、半階というか…三角屋根部分の屋根裏の。積雪のある北海道なので屋根をフラットにし、上に堆雪してもいいタイプのおうちが多く存在します。ただ昔から、家って三角屋根のイメージがつよいので、その三角の部分の空間が何か利用できないか、2階から3階に上がれる階段を付けてロフトスペースを設けたお家を建てたいっていう人も、けっこう住まいの相談窓口むすぶにご相談いらっしゃるんです。
渡部 本当に屋根裏部屋っぽい感じで、取れる高さは1.4mしかないんですけど、それでも座椅子を設けて低めのカウンターを付けたりすると趣味のスペースとして使えますね。建築ルール上対応できる範囲でもう1部屋できたような。
―すごくいいですね。お子さんがいたら色々使えますね。遊ぶ場所にもなるしあとはお父さんの趣味のスペースとか。そういったところも渡部製作所の特徴の一つになるのかなと思うんですけども、他のエリアにもモデルハウスがあるんですよね。
渡部 浦河町にございます。私が若い頃は他の会社で営業マンとして働いたのですが、ご縁があった先輩が襟裳町出身で。その方が襟裳に一緒に営業に行かないかと誘われたことがきっかけで、20年前なんですけど日高方面に毎週1回はご縁があって通いながらお仕事をしていました。最初はえりも岬から始まって様似町、浦河町まで受注をいただいているというところで…今年から浦河支店を作ろうと考えています。
10パターンを超えるプラン出し
お客様と本気・本音で向き合うことも
―ひとつのお家を建てる際にじっくりと時間をかけるというお話をされていたのが印象的だったんですけれども 理想の家づくりを進めるにあたりどのような点が大切とお考えでしょうか。
渡部 お客様と最初モデルハウスでお会いして、そこから色々プランづくりが始まっていきます。プラン(平面図)から着工までの間が、一番煮詰めること、打ち合わせすることが長くなります。時間をかけてじっくりやっていただければ、理想に近いお家は建つということは、私たちもお客様にご説明して取り組んでいます。
―プランから着工まで、どのくらいの時間をかけていらっしゃるんですか?
渡部 図面プランだけで決まる方、3プランくらいで決まる方もいますし、様々ですね。 しかしながら、ほとんどのお客様が10〜15プラン以上です。プランをたくさん作ってそれを間取りというかプランを書く時に家族構成に合せて一つひとつ積み上げて作っていきます。あとは土地、立地条件ですね。そこをしっかり把握しないと、風の向き方とか陽の入りとか…当たり前のことですけどね。ただ僕らは遠方が多いので日高方面とかニセコとか、畑がある農家さんの家も多いですし、家族構成をかなり重視するようこだわっております。
布広 (プラン数が)けっこう多い方ではありますよね。やはり手造りで一棟一棟手掛けていらっしゃるという印象が強いです。
渡部 それだけ長く私達も関わっていきますので、本音のぶつけ合いもしっかりさしていただいております。
―それを聞いて安心しました。本音で言ってくれるんだ、っていう。プロの目線で。
渡部 やはり後々、お互いに思っていることが十分言えないで家が出来上がってしまったっていうケースもあるので、しっかりお互いに言いましょうっていうことで。時々“ケンカ”もします(笑)。
―え!お客様と?社長が?
布広 温厚なイメージが強いですが(笑)
渡部 “ケンカ”というか、怒鳴り合いとかそういう感情的なものではなく、「ここはしっかりこう作っておかないと後々こうなりますよ」と。「奥様いかがですか?」と言うようなことを、はっきりと。
布広 きちんとできる・できないとか、無理があるか・ないかとか、そういうことですよね。
渡部 もちろんご予算の関係もあるので、せめぎ合いもありますが、やはり皆さん、三者四者が輪にならないといいものができないということは経験していますので、一緒に積み上げていきたいと思ってやっております。
親子二代にわたる職人もいる
100年企業を目指していく
―渡部製作所で働いている方は何名いらっしゃいますか
渡部 設計・デザイン・営業・職人も合わせて17名くらいですね。最近2人ほど20代前半の若い方が入ってきましたので平均年齢も下がりました。フレッシュになりましたね。やはり客層が…年齢が高い方が多いんですが、私達も、もう少し若い方に家を提供したいというのももちろんあって、若い子の発想とか思いとかを一緒に取り入れてかないと駄目なのかなと。私ももう50手前ですけどね、目線が若い方と違って、勉強しても若い発想には付いていけない部分もあるので、共同作業しています。
布広 若い方というか、今働き方も様々になってきていると思うんです。本社事務所もフリーアドレスですよね。
渡部 基本的にオフィスや席が決まってなくて、私たちも“いかにも事務所”という空間を作りたくなくて。やはり自然の中で仕事をしたいという発想で考えると、どうしてもフリーアドレス、もしくはカフェで仕事をしてもいい、そういったワークスタイルをどんどん取り入れていこうかなと。
―ひと通りオフィスを拝見した際、居心地のよさとスタッフ皆さまを大切にされている印象がありました。社長が良いチームワークを作る上で大切にされていることは何か。これが秘訣かな、と思ってることあったらぜひともお聞かせいただけますか。
渡部 年齢が様々なので…最年長の社員が設計担当で72歳になるんですけれども、現役で頼りになります。息子も大工として現在同じ会社で活躍しております。私自身も(経営を継いだ)2代目ですが、社内は2代目がどんどん多くなってきて、棟梁の息子も働いてるとか、親子代々の構成になってきています。
布広 なかなか珍しいお話ですね。それだけ社員が働きやすいということだと思います。親御さんを見て、お子さんも入りたくなるっていう。
渡部 そうですね。おやじの背中を見て…みたいな感じが強い会社ではありますね。会社はやはり環境が一番だと思っていますので、なるべく同じメンバーで、細く長くやっていきたいと思います。だから着工できる棟数も限られてきます。
布広 一年間でこの棟数でと決めて、その中で集中してやっていくということですね。
渡部 そうです。仕事をたくさんいただけるのは嬉しいのですが、やはり今のこのメンバーでどうしてもやりたいので。
―お待ちいただくこともあったり、お断りすることもあったり、何かそういったところからも渡部製作所の思い…何を大切にされているかがうかがい知ることができるなと思います。渡部製作所としてのこれからの展望もお伺いできますか。
渡部 55年続いたので、やはり100年目指したいですね。100年後、私自身はもう居ないと思いますが、誰が引き継いでもいいように、引き継ぎたくなるような会社にしたいと思います。あとはこの自然素材。日本、北海道にはたくさん素材がありますが、まだ使いこなせてないだけだと思います。建材としては手間とお金がかかってしまうので、他の会社では建材屋さんに頼んで仕入れて家を建てているのが現実ですから、弊社としてはできれば山から木を伐採して、それを製材して乾燥してというところまでやりたいと思います。全部が全部使えるわけではないんですけれど、目指しています。
布広 素材にこだわっているというのが貴社の魅力のひとつですよね。何年たってもいい味わいが出てくるのと、造りたてはもう特に(木の)香りと雰囲気がやっぱり天然木の魅力がありますね。それを一つひとつ手掛けているというのが一つ。あとは大工さんの手間暇かけた造作を現場で作り込んでいく。組み立てるだけじゃなくて、大工仕事が一個一個、隅々まで生きているということもありますし、打ち合わせを何十回も。いたずらに時間かけるわけじゃないと思いますが、やはり納得いくまで空間作りを妥協しないというところ。家族が納得いくオリジナルの空間作りをしてくれるところが渡部製作所さんの魅力だなと思いますね。
渡部 一生に一度の家になるかと思われますけれど、たくさんのハウスメーカーさんや工務店さんがある中で、弊社のこだわりとしては、天然木を主体にやっております。親子2代にわたる職人さんも携わっていきます。弊社ごとで申し訳ないのですが、職人やメンバーシップを重視する弊社のペース、流れで施工させていただくようなことになるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
※2023年末収録2024年1月放送「むすぶマイホームラジオ」内での対談から抜粋
